【#2】問いと対話のデザイン編~今の子育て状況に違和感!夫婦で話し合いたい…でもどうやって? ~

公開日:2022/01/17

【#2】問いと対話のデザイン編~今の子育て状況に違和感!夫婦で話し合いたい…でもどうやって? ~

こんにちは!フレーベル館・子ども子育て研究室です。

今回の記事が2回目となるこの連載では、「夫婦間の子育てにおけるコミュニケーション」に着目し、「思考と感情の整理と対話の方法」をテーマに、3か月にわたり、毎月1名ずつ3名の専門家に、夫婦で一緒に楽しく子育てするヒントを伺っていきます。

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2回目となる今回、お話を伺ったのは、

ベストセラー『問いのデザイン』『問いかけの作法』が話題の

株式会社MIMIGURI・安斎勇樹先生です!

 

【安斎勇樹(あんざいゆうき)先生】
株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO / 東京大学大学院 情報学環 特任助教
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について探究している。主な著書に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』学芸出版社 (2020/6/4)、『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』ディスカヴァー・トゥエンティワン (2021/12/23)、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』翔泳社; 第1版 (2021/4/20)、『ワークショップデザイン論』慶應義塾大学出版会 (2013/6/7)などがある。
【安斎勇樹(あんざいゆうき)先生】
株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO / 東京大学大学院 情報学環 特任助教
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について探究している。主な著書に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』学芸出版社 (2020/6/4)、『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』ディスカヴァー・トゥエンティワン (2021/12/23)、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』翔泳社; 第1版 (2021/4/20)、『ワークショップデザイン論』慶應義塾大学出版会 (2013/6/7)などがある。

(2021/11/04 にzoomにてインタビューさせていただきました。)

 

今回は、「問いと対話」の視点を切り口に、「物事の捉え方」と「対話の始め方」について伺っていきたいと思います。

 

*聞き手=(株)フレーベル館・子ども子育て研究室(以下:子子研)

改めて考えるとおもしろい!“問い”の世界

 

子子研:「問い」という言葉に、あまり馴染みがないのですが、そもそも「問い」とは、どういうものなのでしょうか?

 

安斎先生:「問い」って、要するに虫眼鏡みたいなものなんです。

 

子子研:虫眼鏡ですか?

 

安斎先生:そうです。

 

「対象」が同じだとしても、どういう角度から「虫眼鏡」、つまり「問い」を当てるかによって、物事の「捉え方」や「気持ち」って変わってくるわけです。

 

だから、相手と「どういう問いを共有するか」「何を問いかけ合うか」といったことが、お互いのモチベーションやポテンシャルを高めると共に、良い関係性を築くうえで結構重要になってくるんです。

 

「昨日何食べた?」から考える、“問い”の力

 

子子研:「問い」と「関係性の構築」は、具体的に、どのように関わってくるのでしょうか?

 

安斎先生:先ほども少し触れた「どんな問いを相手に投げかけるか」が、相手との関わりやすさや、対話の起こりやすさに直結するんです。

 

 

安斎先生:例えば「昨日何食べました?」という問いを投げかけると、問いかけられた側って、何かしらの反応をするわけですよね。

 

つまり、この問いによって、昨日の「記憶」が呼び起こされるわけです。それで、「カレーを食べました」とかって返事をするわけですけど。

 

一方で「先月、一番幸せだった食事って何ですか?」という問いの場合、「記憶」を遡りながらも、「自分にとって幸せな食事って何だろう?」とかって考えますよね。

 

そこでは、その人が幸せを感じた「経験」「思い出」「価値観」も、多分セットで語られるはずです。

 

他方で、「一年前の11月4日って、何食べましたか?」という問いの場合、「えー。何してたかなー?」って今度は、スマホの過去の写真を見たりして「記録」を辿るんですよね。

 

このように、こちらが投げかけた問いによって相手はその時の「記憶」「感情」を思い出して、「ワクワク」したり、「ウンザリ」したり、「価値観」を振り返ってみたりするわけです。

 

つまりこちらが投げかける問いが、実は、相手の思考や感情に影響を与えているということを知っておくって結構大事なんです。

 

対話で紐解く言葉や行動のウラ!

 

子子研:ここまで「問い」を中心に伺ってきましたが、「対話」についても、もう少し教えてください!

 

安斎先生:そうですね。そもそも「対話」って何だと思いますか?

 

子子研:話し合うこと…でしょうか?

 

安斎先生:それもそうなんですけどね。

 

「対話」の定義って、実は、なかなか広まっていないんですよね。

 

例えば、「対話」の他に、似たものとして、「雑談」「討論」「議論」と名前のついたコミュニケーションのタイプがあります。

 

ここでは、討論、議論、そして対話について、「日曜日の過ごし方」というお題で考えてみましょう。

 

 

安斎先生:例えば夫婦間で次のように意見が割れたとします。

 

「天気も悪いし、家でゆっくりしようよ」

「せっかくの休みだし、子どももストレスたまっているから、遊園地に遊びに行きたい」

 

まず「討論」だと、来週の日曜日は、「家にいるべきか」、それとも「遊園地に行くべきか」を決めます。

 

次に「議論」だと、メリット/デメリットを出し合って、解決に向けてお互いの意見に折り合いをつけます。

 

最後に「対話」だと、「そもそもなんで夫は、家にいたいと思っているんだろう?」とか、反対に「なんで自分は、遊園地に行きたいと思っているんだろう?」というように、言葉や行動の裏にある見えていない部分を理解し合おうとするんです。

 

そして、お互いの「前提」「理由」を共有していくと、「せっかくの週末、どんな過ごし方をしたら子どもにとって幸せか?」という新たな問いが生まれ、また違ったアイデアや行動に繋がったりします。

 

お互い「違う景色を見ている」ことを理解し、交換する

 

子子研:子育てにおける対話が今回のテーマですが、夫婦で一緒に楽しく子育てをするためには、どのような問いを立てていけばよいのでしょうか?

 

安斎先生:対話で問題解決する場合は、その問題をどういう物語で捉えるかっていうことが大事なんです。

 

僕自身、子どもが今3歳なので、実感を伴ってわかるんですけど、子育ての初めの頃って、なんとなく夫婦間で「悪循環的スキルギャップ」が開いてくるんですよね。

 

子子研:スキルギャップですか。

 

安斎先生:そうです。

 

例えば子育てで、たまたま「子どもとのお風呂」というタスクボールを妻が連続して取り続けてくれたとします。

 

夫も最初のうちはやる気があったのだけど、タイミングを失ってしまっているとかで…なんとなくその担当が、妻に振り分けられていくことって、あると思うんですよ。

 

その結果、必然的に夫婦間で、そのタスクにおける経験値の差やスキルギャップが発生してくるわけです。

夫も心の中では「自分もタイミングがあれば担当したい」と考えながらも、動けなくなってしまう。

 

この時に、一番のバッドパターンは、「動かない相手」の態度に虫眼鏡をあてて、責め立てることです。

 

「なんで動かないの」とか、「気が利かない」とか、いきなり自分が感じているイライラや怒りを起点に仕掛けると、仕掛けられる側は、結構つらい。(笑)

 

とはいえ、実際の子育ての現場では、それでは困るので何とかしたいわけですよね。

 

 

安斎先生:この場合の問題解決には、相手の置かれている「状況」や「景色」を想像し、理解するっていうことが重要なんです。

 

「夫は、動きたかったはずなのに、なぜ動けなくなってしまったのか?」という問いを立ててみる。

 

すると、夫が抱えている「妻がやっているほど、スムーズにお風呂に入れられるだろうか?」というスキル面の不安や「失敗したくない」という感情が見えてくるかもしれません。

 

ただ、勝手に想像だけしていても食い違いって起こりますよね。

 

そこが食い違っちゃうと、「あれ?」ってまた、微妙な違和感を感じて、イラっとする。

 

だから、わからなかったら相手に聞く。その問いが対話になります。

 

対話をしていくうちに、お互いの「前提」や「理由」がわかってきて、結果、ポジティブな関係を築いていきやすくなったりします。

 

大切なのは「完全に理解し合うこと」ではない!?

 

安斎先生:ただ一方で、価値観を全部すり合わせる必要は、ない。

 

というのも、完全イコールなのって、夫婦に限らずそんな人類ほぼ出会えない。多少違うから楽しかったりとか、組織を形成する意味があったりします。

 

だから全部すり合わせる必要は、ない。

 

例えば、「オムツがあって、おしりふきがあって。え?なんでこの状況で替えないの?」みたいなこと、ありませんか?

 

子子研:あります・・・(笑)

 

安斎先生:「なんでそうしないのか」が自分には理解できないから、相手に対してイラっとするわけですよね。

 

でも「違いがあるんだ」とわかっていれば、例えば「この人は、『今、オムツ替えていいのかな?』という謎の疑問が発生しているから、『オムツ替えといて』と言えば良いんだよな」ということで終わる。

 

背景を前もって想像し合えていれば、「“私”だったらそこは、自分の判断で何も聞かずに動くけど、“この人”は、『やって良い』という許可がないと動けない人なんだ」という違いが理解できます。

 

なので、それほど大きな問題として捉える必要はない、ということに気付けます。

 

だから、「違いをわかっている」というのが、大事なことなんです。

 

全部対話で解決できるかと言うとそうではない

 

安斎先生:あともう1つ、「対話だけで全ての問題を解決しようとしないでください」ということもお伝えしておきます。

 

全ての問題を対話で解決できるかって言ったら、そうじゃない。

 

コミュニケーションって大事なんですけど、仕組みとか工夫で解決できる問題は解決する。

 

例えば、ツールを用いた情報共有の仕組みを利用したり、家族のタスク管理の方法を工夫するなど。

 

家計を切り詰めなきゃいけないのはわかっているけれど、タスク全体を見直してみて、この家事はアウトソーシングしてどっかに頼もうとか。

 

そもそも、日々もう少しお互いに余裕ができるように、「対話すべきところにちゃんと時間を使えるようにする」というのも、1つの視点としてあって良いんじゃないかと思います。

 

試してみたい!対話を始める2つの方法

直球!モヤモヤをしっかり伝える

 

安斎先生:対話を始める方法もいくつかあって、今回は2つご紹介しますね。

 

1つ目は、相手には見えていない、自分が抱えているモヤモヤをストレートに伝える始め方。

 

例えば「ちょっといい?」って言って。

 

「なんか今の状況、結構ストレスフルで、なんとかしたいんだよね」と、溜め込んでいたものをバッと出す。

 

そうすると「ああそうだったのか。薄々感じてはいたけど、なんか言い出せなかったから、じゃあ、ちょっと話そうか」って家族会議が始められたりします。

 

話すことを諦めることが多い人は、思い切って「話そう」と言ってみる方法が1つあります。

 

変化球!少し「お題」をずらす

 

安斎先生:2つ目は、「今、困っていること」とか「やって欲しいこと」とかではなく、目の前のことから少しずらしたお題を設定して、間接的に対話を誘発する始め方。

 

例えば、もう少しで子どもの誕生日だとして、「プレゼント、何にするか」というお題を使います。

 

この時に「これからどんな風に育ってほしいと思ってる?」という問いを立て、普段はなかなか話せない長期ビジョンを話す機会にするんです。

 

その中では、お互いに大切にしている「価値観」や「前提」が共有されていき、問題だと思っていたことが本当の問題でなかったことに気が付けたりします。

 

 

安斎先生:また更に少しずらして、例えば、「最近、おやつをあげすぎちゃってると思うんだ。どれくらいあげるのか決めたいんだけど」って日常的なガイドライン決めやルールデザインをお題に話をするとします。

 

相手がもし、この問題に対して自分事になっていなかったら、「一日1個とか決めれば良いんじゃない?」とか、「夕飯の前だとご飯食べられなくなっちゃうから、その後に、1個までって決めれば良いんじゃないの?」とか言ったりするんですよね。

 

 

安斎先生:それに対して、「何もわかっていない!」と感情的になったり、一般論で返したりせずに、こちらが抱えている問題や景色をファクトと一緒に共有する機会にするんです。

 

「いやでも、そうしたいのは山々なんだけど、保育園から連れて帰ってきて夕食の時間の準備をしたいこの時間に、子どもが一番うるさくて、つい黙らせるためにあげちゃうんだよね。どうしよう」みたいな。

 

そうすると、「ああ、なるほど。じゃあ…」みたいに、相手の問題解決思考が働く。

 

こうやってお互いの「前提」がわかると、役割分担がしやすくなるなど、問題解決しやすくなることがあると思うので、うまく対話を仕掛けていくのが、良いのではないかと思います。

 

夫の皆さんへもメッセージをいただきました!

自分から共有しましょう!

 

子子研:これまで妻側へのメッセージということでお話頂きましたが、最後に、夫側へも前向きなメッセージをお願いします!

 

安斎先生:そうですね、まず「どうやって子育てに協力するか」とか、「何を助けたらいいか」ではなく、自分の行動を止めている「前提」や「理由」や「不安」を相手に伝えてみることをおすすめします

 

自分が懸念していることとか、自分の行動を止めているちょっとした気がかりや心配事、些細な悩みって、実は、相手には伝わっていないんですよね。

 

だから例えば、「やり方がわからん」「やったら怒られるの結構つらい…」「一旦、やったことをほめてほしい」とか、なんでもいいんです。

 

何が、自分を止めているのかを自分から共有すると、夫婦の子育てやコミュニケーションもまた少し変わってくるのかなと思います。

 

WHYとHOWの話を分けましょう!

 

安斎先生:あと、これは夫婦どちらにも、使える考え方なんですけど。

 

ビジネスの場合、WHY(目的)とHOW(手段)の話を分けましょうという話をよくするんですよね。

 

よくある語り継がれている話で、中世のレンガ職人3人がいて、「あなたは今何をしているんですか?」と聞いていくんです。

 

Aさん 

「私は、朝から晩までひたすらレンガを積んでいます

 

Bさん 

「私は、ここにレンガを積んで壁を立てているんですよ。これが生業でこれで家族を育てているんです」

 

Cさん 

「私は、ここに歴史に残る偉大な大聖堂をつくっているんです

 

AさんとBさんは、レンガを積むという、

要するにHOW(手段)に目がいっている。

 

しかし、Cさんは、その先にある

WHY(目的)に目がいっているって話です。

 

人って忙しくなると、歴史に残る大聖堂作っていたはずなんですけど、段々視野が狭まって、「ひたすらレンガを積んでるだけなんだよな…」ということになってしまう。

 

 

安斎先生:組織やチームの問題も、WHYが一緒のはずなのに、HOWでズレて問題が起きちゃうってことがあるんですよね。

 

夫婦の子育てでも、完全にすれ違っているわけでも、完全に協力できないわけでもなくて。

 

「本当は一緒に子育てしたい」と思っているはずなので、「何のためにやるのか(WHY)」という話と「それをどうやるのか(HOW)」という話は切り分けて考えましょうという問題解決的なアドバイスをお伝えします。

 

子子研:子育ての場面でも、つい目の前の忙しさや大変さに意識が向いてしまいますが、そもそもの目的を忘れずにいたいです!

 

貴重なお話ありがとうございました!

 

 

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございました!

今回は、物事の捉え方やその先の行動を変える「問い」の重要性について、そして、「対話」の始め方の具体的な方法について教えていただきました!

最後に先生は、「こうした理論が、実際の生活にピッタリあてはまるかと言うと、そうとは限らない。ただ、意識的にこういうことを使っていくと、後々効果がある。確実に使える知見」とも仰っていました。


次回もこの連載では、一人ひとり違う「自分たちらしい子育ての在り方」を構築していく場面で役立つように、具体的な方法をお届けしていきます。

最終回となる来月は、中里弘樹先生による
「セルフケアと信頼関係の構築編」です!

お楽しみに!

(株)フレーベル館・子ども子育て研究室


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