セルフケアとは???
子子研:セルフケアとは何でしょうか?
中里先生:セルフケアにもいろいろありますが、メンタル的なことで言うと、自分の中にある考えや感情に善し悪しをつけないで、ありのままを「観察する」、そして「受け入れる」ということです。
人は無意識のうちに、自分の考えや感情に抵抗したり、「こんな考えはいけない」と考えなかったことにしたり、「間違ってる」と判断を加えたり、或いは「いつも良い気分でいなければいけない」といった条件を付けたりしているんですよね。
それらを1つずつ外していって「どんな考えを持っていてもオッケー」、「どんな気持ちでいてもオッケー」という捉え方をすることが、最終的には、セルフケアにつながります。
セルフケアとは、自分の中に起こることを「そのまんま認めていくこと」なんです。
“オッケーオッケーの関係”をつくる
子子研:相手との信頼関係を構築するうえで、セルフケアは、どのようにつながるのでしょうか?
中里先生:まず、人間関係は必ずスタート地点が「自分」なんです。
だから自分が犠牲になったり、我慢し続ける状態だったりすると、相手との長期的な関係は、築きづらいわけです。
また、自分には自分の考えがあるように、相手には相手の考えがあるということ、つまり、お互い違う景色を見ているということも理解しておく必要があります。
そして、お互いが自分をセルフケアできている状態であれば、相手がどんな考えや感情を持っていても、ありのままを受け入れることができます。
すると、「違うよね私たち」と認め合えるし、本音で話せるし、対話を重ねていける“オッケーオッケーの関係”がつくれるようになるわけです。
これが結果的に、信頼関係につながっていきます。
“段階を踏む”ことが信頼関係構築のカギ!
子子研:夫婦間における信頼関係の構築には、どのようなポイントがありますでしょうか?
中里先生:そうですね。夫婦になってから数年ぐらいっていうのは、どんどん違いが見つかって「こんなはずじゃなかった」みたいなことも、たくさん出てくる時期だと思うんですよね。
たとえお互いが「一緒にいたい大切な人」であったとしても、違いを出していく段階では、必ずぶつかる。
ぶつかっていいんですよ。
ぶつからない方が不自然。
長期的な視点で心の中に余白を持つ
中里先生:もしそうした違いを出していく段階で「なかなかうまくいかないな」と感じたり、「今、つらい」ということを感じたりした時、それを「今すぐどうにかしたい」と短期的な視点で捉えると、苦しいです。
例えば二人で取り組む子育てを例に考えてみても、仮に高校卒業か大学卒業までだとして、18年から22年かかるわけで、とても長期的な取り組みですよね。
「今、目の前のことをなんとかしたい」、「今、苦しい」って状態だと、「少しずつ変わっていく」ということは、意識していない可能性がある。
なので、少し俯瞰して、長期的な視点を持って、「変わっていくには段階がある」と捉えてみる。
すると、少し客観的になれます。
意外とこの「関係構築には段階がある」という視点が消えていることが多いので、そこにまずは気がつけると良いのではないかと思います。
子子研:長期的に考える上での、秘訣などはありますか?
中里先生:長期的な取り組みにおいて、関係が途中で終わらずに一緒に協力していく場合は、やっぱり「対話」が必要になってくると思います。
けれど「対話」って、違いを出していくということなので、衝突するかもしれなくて、実は結構怖いことなんですよ。
勇気がいることですよね。
しかし、その衝突は、寧ろ信頼関係の質を高めていくチャンスだとも捉えられます。
対話の積み重ねによって「パートナーの力」というのが、育まれてくるんです。
イライラするのは大事なものを守ろうとしているから
子子研:衝突を信頼関係構築のチャンスに変えるには、どのような方法があるのでしょうか?
中里先生:例えば、夫に任せたけど、自分のやり方と違ったり、渋々されたりしてイライラしたり、「イライラするくらいなら任せない方がいいのかな」とか思ったりしますよね。
ここで大事なのは、イライラするという「その感情をどう捉えるか」っていうことなんです。
人がイライラするのは、「大事なものを守ろうとしているから」なんですよね。
中里先生:何を大事にしてるかは、様々だと思います。
時間の使い方なのかもしれないし、子どもとのかかわり方なのかもしれない。
単純に自分が疲れていることや、取れてない睡眠時間が気になっているのかもしれない。
「今、自分がイライラしているのは、守りたいものが危うい状態だからだ」と捉えてみて、「自分は、何を守ろうとしているのか、なぜそれを守りたいのか…」と言語化していく。
言語化していって「私は、これを守ろうとしているんだ」というところまで気がつけると、考えと気持ちの整理ができている状態になります。
そこまで行くと対話ができる状態だと思うので、「何を守りたいのか」ということをパートナーと共有できると良いのではと思います。
日々のコミュニケーションが機能しているか見直す
中里先生:とはいえ「子育てのことですごく困っている!」って、いきなりは、言い出しづらい場合もある。
そういう場合は、「おはよう」、「ありがとう」、「ごめんね」といった、日々の基本的なコミュニケーションを見直してみるということが1つチェックポイントだと思うんですよね。
すごくベーシックなことですけど、こうした些細なことから段階的に日々の関係性の質を変えていくと、お互いの通信回路がつながるようになります。
すると「あのね、実はね」と、言い出しづらいようなことも話し合いやすくなります。
試してみたい!対話を重ねやすくなる【3ステップ】
子子研:対話を重ねていくうえでのポイントは何でしょうか?
中里先生:そうですねいろいろありますが、今回は、覚えておきたい3つのポイントを段階的にご紹介しますね。
STEP1:「私」を主語につける
中里先生:まず、「私」を主語にして伝える。
相手にイライラしたり、がっかりしたりする時って、「あなた」が主語になっていることが多いんです。
口で言っていなくても、心の中がそうなっていることがあります。
「あなたが手伝ってくれない」、「あなたが全部こっちへ押し付けて」ってね。
まず、ここに気がついてもらいたいんですね。「あ、なってる」って。
なっていることに気がつけると、主語を「私」に置き換えることができますよね。
「私は、片付けても片付けても部屋が散らかることに困っている」とか、「私は、連日寝不足でそろそろ限界」とか、「私は子どもの成長の喜びをあなたと共有し合いたいと思ってる」とかね。
STEP2:事実に焦点をあてる
中里先生:次に、<人>ではなく、状態や状況といった<事実>に焦点をあてる。
「夜中子どもが泣いていても、あなた<人>は何もしてくれない!」ではなく、「私は、ここ1週間くらい子どもの対応で夜中30分ごとに起きていて<事実>、それがつらいんだ」というように。
物事や状況について「困っている」、「心配」、「ちょっとこのままじゃ負担が大きい」など、自分の気持ちや状況を伝えて良いんですよ。
相手は、伝えられて初めて事情がわかることがあるかもしれませんからね。
STEP3:長期的な視点で段階を踏む
中里先生:最後は、段階的に「まずは」とか「せめて」といった小さなリクエストをかけていく。
例えば「睡眠がとれていなくて、つらいから、どこかで睡眠時間を確保させてほしい。“まずは”今週か来週の週末。“せめて”3時間お願いできない?」とか。
子子研:少しずつリクエストしていくと、相手も受け取りやすくなりますね!
大事なのは「上手く伝える」ことではない!?
子子研:小さなことから始めてみようと思うのですが、上手く伝えられるか心配です…
中里先生:そうですよね。
いきなりは、変わらないです。少しずつ変わってくる。
これも5年、10年ぐらいの長期的な計画として捉え、段階的に進めていきましょう。
とはいえ実際、上手く伝わらないのってなかなかしんどいんですよね。本当にしんどい。
中里先生:だから、もう「練習中です」って宣言しちゃってください。
「今、ちょっと練習中で、あまりうまく言えないのだけど、いろいろ自分の中で、なんとか伝えたいと思ってやってるところなんです」って、宣言します。
責めるつもりはないんだけど責めちゃったら、「責めちゃったかもしれない」と言えば大丈夫です。
きっと相手にも、戦う気はない、対立をしたいわけじゃないってことが伝わります。
上手くいかなかったとしても、「ありがとう」と「ごめんなさい」が機能していれば何度でも「また話せる」関係が深まってくるんですよね。
だから、実は、上手に伝えることは、それほど重要なことではないのです。
1番大切なのは「良い関係を維持しようとしているということ」が、伝わることですよね。
夫の皆さんへもメッセージ頂きました!
子子研:これまで妻側へのメッセージということでお話頂きましたが、最後に、夫側に向けても前向きなメッセージをお願いします!
中里先生:今までの話は、夫婦どちらにも伝えたいことですが、付け加えるとするならば…。
「反応」と「対応」を分けた方が良いと、僕は、思っているんです。
例えば、無意識に「男は、外で働くもんだ」とか「子育てはだいたい女性がやるものだ」とかって、反応としてバンっと出てくる場合もあると思うんです。
でも、それって一人ひとりのせいじゃないです。
実際、そういう時代があったし、自分の価値観って、子どもの頃から見てきたもので培われていくわけですから。
特に子どもの頃は、自分で自分の価値観を選べないですよね。
そこで、自分の子育て観の大枠が形成される。
ただ、そういった従来の子育てにおける価値観も今、大部分が壊れた印象がありますよね。
皆さんの周りはいかがでしょうか。
男性も育児に関わっている、それが世の中の共通価値観に変わってきているんじゃないでしょうか。
私たちの価値観は、生きている時代や社会の中で変わるものです。
中里先生:それでも、自分たちが培ってきた反応っていうのはすごい力を持っているものです。
だから「反応」と「対応」は、意識して分けて考える必要がある。
「子どもたちが大人になる頃に、どういう社会になってると良いのか」を考えて対応していく。
例えば、「これは相手がやって当たり前」という古い反応を、「今日は自分がやってみる」という新しい対応に変えていく。
これまでやってきた反応は、癖ですから。
自分の「反応」を見直して、自分たちに合ってる形で「対応」していく。
ぜひ、お互いに取り入れてもらいたいですね。
子子研:反応と対応の違い、意識するとまた捉え方やその先の行動が変わりますね。
貴重なお話ありがとうございました!
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まとめ
3回に渡ってお届けしてまいりました「子育てはだれとする?気持ちが伝わるコミュニケーション」も、今回が最終回です。
「思考と感情の整理と対話の方法」をテーマに、3名の専門家にお話を伺ってまいりましたが、いかがでしたでしょうか。
一人ひとり違う、子育て、普段なかなか振り返ることのない自分のこと、夫婦のこと、子どものことについて客観的な視点で振り返り、気づきを得ることで夫婦間の対話が生まれる機会になりましたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(株)フレーベル館・子ども子育て研究室