著者:サト母
小学3年の娘の話だ。
彼女は「冷たいお弁当」がめっぽう苦手である。
そもそもお弁当は冷たい、あるいは常温のものだ。
温かいお弁当が出てきたのは電子レンジが普及し「後から温める」行為が成立してからであろう。
平成生まれ令和に成長する娘は、現代の家電の恩恵を目いっぱい受けており、冷たいご飯を食べるという感覚に全くもって慣れていない。
私がワーキングマザーのため、幼少期を主に保育園で育った彼女は、園内で作った出来立てで温かく美味しい給食というありがたい環境で育ち、また私自身も料理は嫌いではないので家では温かい料理を出してきた。
そんな娘は、小学校になって長期休暇の学童保育でお弁当持参になると、びっくりするほどお弁当を残してきた。
私はかれこれ10年以上夫にお弁当を作っているので、娘のお弁当もさほど苦労しないで作っていた。
特別なキャラ弁や、かわいいピックで彩ったようなお弁当が毎日ではないものの、よくある、から揚げハンバーグ玉子焼きハムでなんか巻いたやつ……みたいな、それなりにいろいろと作ってはお弁当のおかずにしてきた。
それでも、残して帰ってくる娘。
あまりにもお弁当だけ食べないので、一度話し合ったことがある。
この先、中学や高校になったら毎日お弁当になって電子レンジもない場所で食べることが多くなるんだよ、とか。
災害になったらおにぎりだけの日とかもあって好き嫌いできないんだよ、とか。
お弁当は冷めても美味しくできているのが当たり前で、その工夫を母はしているんだよ、とか。
しかし、そのどれもとにかく娘の心には響かず、
彼女はただただ「冷たいお弁当はまずい」とだけ言い放ち、お弁当を残して帰る日が続いた。
小学校3年の夏休みのある日、いきなり学童保育の先生から電話が鳴った。
怪我でもしたかと慌てて出ると、
「残して帰ると母に怒られるから、お弁当を捨ててほしい」
と、娘が懇願したそうなのだ。
こともあろうに学童保育の先生、これを上手く回避できずに、「娘のお弁当を全て捨てました、どうか怒らないでください」
と電話で報告してきたのだ。
学童の先生に閉口するのはさておき、問題はそのことを頼んだ娘だ。
そして帰ってきて一言何と言うか。
「今日はお弁当全部食べてきたよ」
娘はうそをついたのだ。
—
お弁当を捨てておいて、食べたとうその報告をした娘。
うそをつくなとずっと教えてきたのに、帰宅開口一番うそを言った娘。
とにかくもう一度じっくり話さないといけないと思い、宿題の確認もそこそこに娘を別室に呼び出した。
自分が大事な友人に作ったプレゼントやお手紙を捨てられたらどう思うか?
捨てたということは隠せば本当にバレないのか?(たまたまその日のお弁当は「骨」「皮」系のゴミが残る日だった)
作った人はどんな気持ちで作っているのか?
苦手だと知っているから、いつも工夫し好きなものを入れていたり、常備菜のような常温でも食べやすいものを中心に選び、お弁当のおかずとして入れていたことに気づかないか?
等々、ゆっくりと話し、彼女と向き合った。
そんな小学3年の娘と向き合っている途中で、本当に悲しくなって涙が出てきた。
自分が悩んで工夫して早起きして作っているお弁当に何の価値もないんじゃないかと、
涙が一度出たらボロボロ出てきて、本当にお弁当ごときでこんな話をしているのがばからしくなった。
(後編へ続く)
まとめ
日常の中にある出来事を、母の目線から切り取っています。