食中毒といえば細菌やウイルスが原因で、梅雨の時期や夏場に多いイメージですが、寄生虫による食中毒は年間を通して発生しています。とくに冬は魚の脂ものって、美味しさが増すタイミング。年末年始は、お刺身やカニなどの縁起物を食べる機会も多いのではないでしょうか。今回紹介するのは、そんな冬の季節に気を付けたい寄生虫についてのお話です。
※この記事には寄生虫の画像が含まれています。苦手な方はご注意ください
食中毒といえば細菌やウイルスが原因で、梅雨の時期や夏場に多いイメージですが、寄生虫による食中毒は年間を通して発生しています。とくに冬は魚の脂ものって、美味しさが増すタイミング。年末年始は、お刺身やカニなどの縁起物を食べる機会も多いのではないでしょうか。今回紹介するのは、そんな冬の季節に気を付けたい寄生虫についてのお話です。
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食中毒とは、飲食物を介して発生する病気のことをいいます。一般的に、嘔吐や下痢、腹痛などの消化器症状を起こしますが、原因はさまざまです。
厚生労働省の統計(食中毒発生状況)によると、直近5年間の食中毒発生件数は変動があるものの、700~1400件の幅で推移しており、令和4年の食中毒は962件(患者:6,856人)も報告されています。
厚生労働省の「食中毒統計資料」によると、梅雨時期と夏は気温と湿度が高く、細菌が増えやすいため、細菌性の食中毒の発生件数が増加する傾向にあります。冬はノロウイルスなどのウイルス性の食中毒の発生が見られます。一方、アニサキスなどの寄生虫による食中毒は年間を通して発生しているので、日頃から食中毒に対する注意が必要です。
平成30年から令和4年に発生した食中毒の主な原因は寄生虫、細菌、ウイルスがトップ3となっており、このほか、きのこや野草などの自然毒や、化学物質などによる食中毒も一定数発生しています。厚生労働省の統計によると、その割合は以下の通りです。
1位:寄生虫(魚介類に寄生するアニサキスなど)43.5%
2位:細菌(カンピロバクターやウェルシュ菌など)32.5%
3位:ウイルス(ノロウイルスなど)14.5%
4位:自然毒(きのこ、野草、ふぐなどに含まれる天然の毒)6.5%
5位:化学物質(ヒスタミン、漂白剤などの薬品等)1.2%
6位:不明・その他1.9%
参考
食中毒をひきおこす原因が、細菌やウイルスより多いのは寄生虫だなんて驚きですよね。ちょっと怖いですが、食中毒をおこす寄生虫について詳しく紹介していきます。
アニサキスは、サバ、サンマ、アジ、イワシ、ヒラメ、サケ、カツオ、イカなどの体内に生息する2〜3センチほどの糸状の寄生虫。最終的な寄生先である終宿主(しゅうしゅくしゅ)はクジラやイルカなので、これらの魚に寄生しているのは幼虫の段階のものです。アニサキスは魚の内臓に寄生し、魚が死ぬと内臓から筋肉に移動します。内臓でとぐろを巻いている状態は目で見ることができる場合もありますが、筋肉に移動してしまうと見つけるのは容易ではありません。
アニサキスが寄生している魚を生で食べることで、アニサキスが胃壁や腸壁に刺入(しにゅう)して食中毒(アニサキス症)を引き起こします。海産魚介類の刺身、冷凍処理をしていないシメサバなどの加工品による感染が多く報告されており、主な症状は食後数時間後から十数時間後に生じる激しい腹痛や嘔吐などで、消化器症状以外にアレルギー症状(じんましんなど)を引き起こすこともあります。
アニサキスに対する効果的な治療薬はありません。治療は、内視鏡を使ってアニサキスを物理的に除去する方法になります。万が一腸に穴があいてしまったような場合には、緊急手術で大事になってしまうこともあるとか。怖すぎます……。
アニサキスアレルギーに対しては、アレルギーに関する対処療法を行いますが、アナフィラキシーの場合、緊急に医療処置を行う必要があります。
内臓に寄生する幼虫は漁獲後に筋肉へ移動することがあるため、魚を購入する際は新鮮な魚を選び、速やかに内臓を取り除きましょう(内臓を生で食べるのはもちろんNG)。鮮度の悪い魚の生食はとくに避ける必要があります。
また、生魚を調理する際には、アニサキスがいないか目視でよく確認するようにしましょう。一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびが効くというのは、迷信なのでご注意を! これらでアニサキスの幼虫は死滅しません。冷凍、加熱が有効です。
参考
クドア・セプテンプンクタータ、通称クドアは、主にヒラメに寄生するクドア属の寄生虫の一種。その生態は、よく判っていませんが、多毛類(ゴカイ)と魚類との間をいったりきたりして各々に寄生しているようで、ヒラメのほかにも、マグロ、エビ、カンパチ等の筋肉に寄生するといわれています。ヒトなどのほ乳類には寄生しないようです。ちなみに、肉眼では確認することができない大きさです。
クドアが寄生したヒラメを非加熱(刺身、マリネなど)、または加熱不十分の状態で食べておきることが多く、数体の寄生なら問題ないのですが、大量に筋肉中に寄生している魚を食べると、激しい嘔吐と下痢を起こします。発症は食べてから数時間(早い場合は1時間)と比較的短い時間で表れるといわれています。症状は軽度であり、多くの場合、発症後24時間以内に回復し、後遺症もないとの事例が報告されています。なお、クドアが人の体内で成育することはありません。
クドアは、マイナス20度で4時間以上の冷凍、または中心温度75度で5分以上の加熱により病原性が失われることが確認されていることから、一度凍結したのちに加熱調理することにより食中毒は防止できると考えられています。
参考
人に害を与える食品媒介寄生虫は、ほかにもあります。とくに哺乳動物とヒトには共通する病原体・寄生虫が多くあり、ジビエ料理などでも鳥獣肉の生食は避けることが基本です。鶏・豚・牛などの家畜と違い、適切に衛生管理された環境下で飼育された肉ではないことから、細菌やウイルスを原因としたさまざまな病気にかかっていることがあります。
実際にジビエ肉を食べたことで発生した、寄生虫を原因とした食中毒事例の一部を紹介すると、馬肉からのザルコシスティス・フェアリー、イノシシ肉からのウェステルマン肺吸虫症、クマ肉からの旋毛虫(トリヒナ)などがあります。
幸いなことに、国内には死亡例がないようですが、これらの寄生虫は治癒したとしても神経障害などの後遺症を残すこともあるので大変危険です。
子どもは大人より免疫能(免疫力)が低く抵抗性が弱いため、症状が大人より重症化しやすく、脳など中枢神経の合併症を起こすリスクが高く、注意が必要です。そのため、魚や貝を子どもに食べさせる際にも、加熱するのが望ましいでしょう。刺身や寿司は何歳から食べていいという決まりはありませんが、感染症のリスクがある点、とくに乳幼児は重症化しやすい点を念頭において、慎重に判断する必要があると思われます。
厚生労働省のホームページ(食中毒/厚生労働省)に、食中毒について詳しく掲載されているので、一度チェックしてみることをおすすめします。
参考