年始早々、不意に身体を動かしたときに「あいたたた、これは腰をやってしまったかも……」と冷や汗をかきました。経験がある方ならわかると思いますが、ピキっとくるあの独特の感覚と痛み……。そう、“ぎっくり腰”です。思い出すのもツラいのですが、ただでは転ばず(笑)、これを機にぎっくり腰になってしまうメカニズムや疑問についてまとめてみました。実際に効果のあったセルフケアもご紹介します。
ぎっくり腰とはどんな症状? 一般的な腰痛との違いは?
ぎっくり腰は医学的な病名ではなく、“急性腰痛”の通称であり、何かの拍子に急に腰が痛くなる症状を指します。急性の激しく強い痛みが特徴で、欧米では「魔女の一撃」とも呼ばれます。腰に何かが刺さっているようにズキズキ痛んだり、立ち上がろうとするとピキーンと痛み腰が抜けそうな感覚を覚えたりするなど、人によってさまざまですが、脂汗をかくほどの痛みを伴うことがほとんどです。
多くは1週間から10日ほどで自然に回復していきますが、2週間以上改善が見られない、むしろ症状が悪化している、いったんは治まってもすぐ繰り返す場合は、ぎっくり腰ではなく、椎間板ヘルニアや圧迫骨折などほかの病気が隠れていることがあるので注意が必要です。
ぎっくり腰になってしまう原因・メカニズム
ぎっくり腰の発症のきっかけとして多いのは“重いものを持ち上げた拍子に発症する”ケースですが、“くしゃみをしたとき”や“下に落ちた物を拾おうとしたとき”、“靴を履いて立ち上がろうとしたとき”など、些細な動作がきっかけで起きることもあります。
これらに共通するのは、中腰の姿勢で行う動作だということ。中腰は椎間板に圧がかかりやすい姿勢で、特にヘルニアなど腰に問題を抱えている人にとっては、トラブルを引き起こしやすい姿勢です。はっきりとした原因はいまだ解明されていないとのことですが、腰を曲げたりひねったり、腰にかかる負担が過剰に生じたときに起こるようです。
ぎっくり腰が起こる要因として、次のことが挙げられます。
・筋力の低下
・柔軟性の喪失
・ストレスなどの心理的要因
これらの要因が重なって筋緊張が強くなると、伸縮機能が衰えていきます。例えば、ゴムバンドを極限まで引っ張ると伸びきった状態となり、その後プチっと切れてしまいますよね。筋肉も同じで、日頃の負荷によって伸びきった状態が続くことでぎっくり腰になってしまうのです。
要はつった状態ですね。運動不足によって筋肉が弱くなり、血流が悪くなると柔軟性の低下が見られます。「何もしていないのにぎっくり腰が起こった〜」という声をよく聞きますが、「身体のケアを何もしていない」ことがきっかけで引き起こるのです。
ぎっくり腰の場合、特に多いのが筋肉性のタイプ。首から腰にかけて、体の表面にある脊柱起立筋を使い過ぎることで負担がかかり、炎症を起こすことがあります。その予防には、体の深部にある腹横筋や多裂筋などのインナーマッスルを使って脊柱起立筋を助け、負担を軽くすることが有効です。
これには納得で、筆者の場合は過度なデスクワークからの不良姿勢により、肩甲骨まわりの筋肉が凝り固まり、腰や腰周りの筋肉に過剰な負荷がかかり、腰痛を引き起こしたようです。
ぎっくり腰になってしまったときの対処法
1. まずは安静
ぎっくり腰になった当日から翌日くらいまでを急性期といいます。痛みが強い急性期は、無理せず、まずは安静が第一。自分が最もラクだと感じる姿勢でゆっくりと深呼吸を繰り返し、痛みの状態を観察しましょう。
ぎっくり腰になると、仰向けで脚を伸ばして寝るのは正直難しいです。筋肉や骨の構造上、仰向けになり脚を伸ばすと腰に力が集中してしまうためです。強い痛みがあるうちは、ヒザの下に丸めた毛布やクッションなどを置き、ヒザが90度程度曲がった状態で寝ると、かなりラクです。また、痛いほうを上にして横になり、ヒザの間にクッションを挟んだり、抱き枕などを抱いて寝るのもおすすめです。ひとまず、これで初日を乗り切りましょう!
2. 患部を温める(場合により冷やす)
「患部は熱を持っているから冷やしたほうがいい」という意見と、「温めて血液の循環の改善を図ったほうがいい」どちらの意見もあり、一般的にぎっくり腰の直後はしっかり“冷やす”ほうがベターのようです。腰に激しい痛みを感じたら無理に動かさず、冷湿布や保冷剤を包んだタオルなどで患部を冷やし、強い痛みが和らいできたら「冷やす」から「温める」に変えます。炎症物質が落ち着いたら血流を促していくのです。
ただ筆者は個人的に、患部を冷やすよりもカイロなどで患部を温めるほうが断然ラクになりました! 初日はシャワーで済ませましたが、翌日以降は無理のない範囲で、温かいお湯にゆったりと浸かって身体を温めました。入浴には血液の循環の改善、浮力による腰の負担の軽減、自律神経のバランスが整うリラックス効果があり、気分的にも癒されました。
逆に、入浴によって痛みが強くなる場合や、患部が熱をもっていると感じる場合は、入浴を避けたほうがよく、保冷剤をあてるなどして取り急ぎ冷やすことが効果的のようです。ポイントとしては、“少しでも自力で動ける場合は、温めたほうがラクになる”ということでしょうか。なお、全く自分で動けないという場合はこれに限りませんので、専門医に相談するべきだと思います。
3. コルセットや痛み止めに頼るのも手
痛みに恐怖を感じることは、慢性化にもつながりかねません。痛みが強いときにはコルセットを使ったり、痛み止めの服用も選択肢のひとつです。ただし、痛みがなくなってからもコルセットに頼っていると、筋力が衰えてかえって腰痛を再発する原因になってしまいます。経過を見ながら期間限定として、上手に使いたいですね。市販の湿布薬も有効です。
実際に筆者も、妊婦時代に愛用していた“トコちゃんベルト2”を引っ張り出して使ったら、かなりラクに過ごせました。“トコちゃんベルト2”は産前産後だけでなく、腰痛や骨盤底筋のサポートにも適しているのでおすすめです。
4. 痛みが弱まってきたら積極的に動き、普段通りの生活を
痛みが落ち着き、少し動けるようになったら、できるだけ普段通りの生活を心がけたほうが、早く回復することが分かっています。血行を良くするためにも、無理のない範囲で少しずつ身体を動かしていきましょう。治りが早くなるだけでなく、慢性化も防げるといわれています。そして、外科的な治療が必要な場合もあるため、整形外科や接骨院・整骨院などを受診することをおすすめします。
イギリスの医学誌に掲載された研究では
- ベッドでの安静
- 治療家による施術を受ける
- できる限り通常の日常生活を過ごす
という3グループに患者を分けて実験したところ、3のできる限り通常の日常生活を過ごすよう心がけたグループが最も回復が早く、1のベッドで安静にしていたグループが最も回復が遅かったという結果が出ました。他の研究でも同様の結果が出ており、動けないほどの激痛でない限り、ぎっくり腰は無理のない範囲で動いたほうが回復が早い場合がほとんどです。痛いからといって過度に安静にしていると逆に症状を長引かせてしまうので、痛くて全く動けないという状況が治まったら、なるべく普段通り動くようにしましょう。
参考:The treatment of acute low back pain–bed rest, exercises, or ordinary activity?
ぎっくり腰にならないための予防法
日常の行動やくせの積み重ねで身体はつくられます。ぎっくり腰を起こさない、繰り返さないためには、 生活習慣を見直す必要があります。
ぎっくり腰になりやすい姿勢に注意する
荷物を持つときに注意!
床に置いた荷物を持ち上げるのは、ぎっくり腰を引き起こしやすい動作の1つです。立ったまま腰だけ曲げて荷物を持ったり、腕の力だけで持ち上げようとしないようにしましょう。まず膝を曲げて腰を落とし、腕ではなく脚の力でゆっくりと持ち上げます。
朝起きるときに注意!
朝起きるときは、誰でも身体が硬くなっているもの。すぐに身体を起こそうとせず、布団の中で少し動いてほぐしてから、ゆっくり起き上がるようにすることでトラブルは少なくなります。
洗顔の際に注意!
洗顔するときの前かがみになる姿勢は腰に負担がかかります。ポイントは腰だけで前屈せず、両脚を前後に開き、ヒザも少し曲げると、腰にかかる負担を軽減できます。
座りっぱなしは要注意!
ぎっくり腰の原因ははっきりしておらず、決定的な予防策はありませんが、腰痛の多くは日々の生活の負担が積み重なって発症します。長時間、座りっぱなしのデスクワークなどをすると、肩や背中、腰などの筋肉が硬直して、腰椎の柔軟性が失われてしまいます。
ストレッチなど適度な運動で筋肉や関節の柔軟性を保ち、筋肉を強化する
ぎっくり腰になる人は身体が硬い人が多く、とくに太ももの筋肉が硬いという共通点があるようです。ストレッチを続けることが予防につながりますが、通勤や買い物のときに早歩きや大股歩きを心がける、エスカレーターではなく階段を使う、掃除や洗濯を大げさな動作で行うだけでもかなり違います。まずは、日常生活から少しでも身体を動かす習慣をつけることから始めましょう。
筆者の場合、朝やデスクワークの合間に、宅トレYouTuber竹脇まりなさんの動画を見ながらストレッチを行うことで、かなり症状が改善されました。痛みがなくなった今も、ゆるく続けています。
https://www.youtube.com/watch?v=L9puWqX2BoQ
睡眠時間をしっかりとる
睡眠不足の人と十分に睡眠をとっている人とでは、“腰痛の発症率に2倍差がある”といわれています。私たち人間の身体は、1日の疲れやストレスを睡眠によって回復させています。寝ている間に、副交感神経と呼ばれる自律神経が機能することで、身体をリラックスさせ、快適な睡眠を促す働きがあるのです。こうした身体の働きが健全に機能していないことは、筋肉の緊張や硬直、疲労の蓄積、血流の滞りなどの弊害を生むことになります。
とくに身体の中心部である腰は疲労を感じやすい部分で、睡眠による身体の回復はとても大切。背中・腰の筋肉に血液・酸素の供給が順調に送られないことが、筋肉や神経を緊張させてこわばらせ、腰痛を生じさせることにつながります。理想的な睡眠時間は7時間。例えば30分程度の昼寝を取り入れるだけで、身体の状態がよくなります。
水分補給を意識する
水分不足は腰痛を引き起こす原因になることが報告されているそうです。脱水症状になると、骨と骨の間にあるクッションの役割をしている椎間板から水分が奪われ、腰痛が引き起こされます。なぜなら、脱水によりクッション機能が低下することで、骨に衝撃がダイレクトに伝わってしまうからです。
背骨と背骨の間にある小さなゼリー状の椎間板は、その約75%が水分です。背骨の椎間板が適切に水分補給されていないと、身体を支え、姿勢を保つことができません。人間が活動する日中の椎間板は、水分量を維持するために懸命に働きますが、徐々に減っていきます。そして椎間板は寝ているときにしか水分を補給することができないのです。大人の身体に必要な水分量は平均で1日2.5リットルと言われています。椎間板を助けるためにも、朝起きたときや寝る前に、コップ一杯の水や白湯を飲むことを意識しましょう。
まとめ
季節の変わり目はぎっくり腰になりやすいようです。とくに子育て中のママの場合、“子どもの抱っこ”でなることも多いと聞きます。安静にと言っても育児は待ったなしですよね。今回の記事は、いざなってしまったときの知識として、役立てていただければと思います。
文/Ai kano